●ワクチン接種の進捗が深刻な経済格差を生み出している 内閣府が発表した2021年4~6月期のGDP(国内総生産)成長率は、物価の影響を考慮した実質でプラス0.3%(年率換算で1.3%)にとどまった。同じ期間、米国のGDPは年率換算でプラス6.5%、欧州(ユーロ圏)は年率換算でプラス8.3%なので、先進諸外国との間には極めて大きな格差が生じている。 IMF(国際通貨基金)が発表した2021年の日本におけるGDP成長率予想は、前回予想から0.5ポイント下方修正のプラス2.8%だった。米国は0.6ポイント上方修正でプラス7.0%、ユーロ圏は0.2ポイント上方修正でプラス4.6%となっており、主要先進国で下方修正となったのは日本だけである。 全体的には先進国の成長率が上方修正され、新興国の成長率が下方修正される傾向が顕著となっており、IMFでは「新興国や途上国ではワクチン接種が遅れていることから、感染拡大によるダウンサイド・リスクが高まる」としている。 つまり、ワクチンが接種できる国とできない国との間に大きな経済格差が生じているという話であり、残念だが日本はリスクが高い側に入っている。ワクチン接種の進捗状況の違いが致命的な格差をもたらしているという単純な事実が日本では十分に共有されてないように思える。 現時点において新型コロナウイルスに対する特効薬は存在していないので、基本的に感染を抑制するしか対策の方法はない。経済への影響が最も少なく、効果的に感染を抑制できるのはワクチン接種だけであり、これが実現できない場合、極論すれば選択肢は2つしか残らない。 1つは、経済を犠牲にしてロックダウンなど厳しい措置を実施することで感染を抑制するやり方、もう1つは、ある程度の感染者を出したとしても、経済を優先するやり方である。 経済への犠牲を最小限にしながら感染を抑制する方法は今のところワクチン接種しかないため、各国はワクチンの確保に全力をあげているが、国力の違いから確保できるワクチン数には違いが生じる。主要先進国では希望する国民はほぼ全員が接種できた状態であり、後は接種を望まない国民にどれだけ理解してもらえるのか、あるいは変異株の拡大に対処するため、3回目の接種をどのタイミングで実施するのかというところが論点となっている。 ●ワクチン不足から打ちたくても打てない 先進各国は、ワクチン接種という最低限の施策は終えたので、経済の回復が優先課題となっていると考えて良い。今のところロックダウンなどの措置を講じるという議論は出ておらず、変異株による感染が予想以上に悪化しない限り、このまま経済回復に向けた動きが加速すると思われる。 一方、日本では肝心のワクチン接種が進んでいないことから、経済をどうするのかについて議論する段階に入っていない。日本では高齢者の接種はほぼ終えたが、経済活動の中核を担う65歳以下の世代については、進捗状況が著しく悪い。 8月19日時点において、2回の接種を終えた65歳未満の国民はわずか22.1%であり、医療従事者を含めても28.7%にしかならない。ワクチン不足から集団接種の受け付けを休止している自治体も多く、経済活動を行っている人のほとんどがワクチンを打ちたくても打てないというのが実状だろう。 ワクチンは政府が確保するものなので、ワクチンが不足している本当の理由は政府にしか分からないが、政府は国民に対して十分な説明を行っているとは言い難い。こうした状況が続くと、一部の国民は投げやりになり「どうでもいい」と考えるようになるし、逆に慎重な国民は、自分の身は自分で守るしかないと考え、自発的に行動を抑制してしまう。 前者のようにワクチン接種を行わないまま、無防備に活動すれば感染者数が増える可能性が高くなるし、後者のように自粛する人が増えれば、当然のことながら経済活動にとってはマイナスとなる。 つまり、今のままでは、感染者数の増加か、もしくは自粛の拡大によって、経済には大きな逆風が吹く。結果として多くの専門家が、7~9月期以降のGDPに数字について悲観的な予想を立てている。
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