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Thursday, December 24, 2020

日本経済の新たな指南役:寺社を修復する英国人 - Wall Street Journal

kuyupkali.blogspot.com

 【東京】日本に住む多くの外国人と同様、デービッド・アトキンソン氏(55)は、日本経済のより良い運営方法に関して幾つかのアイデアを持っている。

 しかし、ゴールドマン・サックスのアナリストだったアトキンソン氏は、首相に意見でき、日本の一部財界要人を怒らせるほど強い政治的発言力を持っている唯一の在日外国人だ。

 英国人のアトキンソン氏は、日本政府の「成長戦略会議」を構成する経済専門家8人の中で唯一の外国人だ。彼は、日本語で書かれた12の著書を持ち、寺社のリノベーション事業の経営と、さまざまな会合での政策提言という異なる2つの分野で活躍している。会合の場では彼は、統計を駆使する。

 アトキンソン氏は、オックスフォード大学卒業の数年後の1990年から日本に住んでおり、流ちょうな日本語を話す。ゴールドマンで働いていた1990年代には彼は、先見性を持って、日本の銀行業界の弱さが経済を危険にさらしていると警告していた。より最近の例では、彼は観光業振興の強力な支持者として知られている。

 日本のスタグネーション(景気停滞)解消への第一歩は、中小企業の生産性の引き上げだというのが、彼の最新のメッセージだ。日本政府は今月、合併や新規分野参入に踏み切る中小企業に最大1億円を補助する計画(訳注=事業再構築補助金)を明らかにした。これはアトキンソン氏のアドバイスの直接的成果だ。

 新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)が世界中で中小企業に大打撃を与える中、アトキンソン氏を批判する人々は、中小企業には合併推進圧力による混乱ではなく、政府の支えが必要だと主張している。変化を主導するのは政府の仕事ではないと指摘する者もいる。

 アトキンソン氏は、日本には他に選択の余地があまりないと主張する。世界銀行によれば、日本では中小企業の低い生産性が要因となって、昨年の労働者1人当たりの平均生産額が7万8570ドル(約814万円)にとどまった。これは米国の水準を40%近く下回っている。さらに厳しいことに、日本では労働人口の高齢化と減少が進んでいる。

 「労働人口の生産性が上がらなければ、日本は自滅する」とアトキンソン氏は語る。

 大企業は、政策面で最も多くの注意を払われる傾向があるほか、米国などの国では、経済に占める比率がより大きい。しかし、成功している中小企業の成長を手助けすることもまた重要だ。360万社の日本企業のおよそ85%は中小企業に分類される。その多くは一握りの従業員しかいない。

 アトキンソン氏は2007年にゴールドマンを退社した後、ある隣人との偶然の出会いから、重要文化財の修復に携わるようになった。同氏の会社のプロジェクトには、ジェームズ・クラベルの小説「将軍」に出てくる支配者をまつった関東北部にある17世紀建立の神社と墓も含まれる。

 この経験を受け、アトキンソン氏は訪日観光客を増やす戦略の推進者となった。この戦略はパンデミックに見舞われるまでうまくいっていた。海外から日本を訪れる観光客の数は、2011年から昨年までで5倍に増加した。

 アトキンソン氏は、日本にはトヨタなど、その分野で世界有数の力を持つ企業が一握り存在するものの、何百万社もの中小企業が前進を妨げていると主張してきた。中小企業は成長や技術への投資を嫌うことが多いからだ。

 同氏は「何度もこの点を指摘し、そのたびに『デービッドはまた同じことを言っている』などと言われてきた」という。

 それを聞いていた人が1人いた。当時安倍晋三首相の側近だった菅義偉氏だ。起業家精神のあるイチゴ農家の息子である菅氏は長年、成長を活性化させる方法を探していた。

 アトキンソン氏によると、菅氏とは4年前から年に2度面会しており、菅氏はアトキンソン氏の著書を読んでいると述べていた。アトキンソン氏によれば、「彼は私が今までに会った他のどの年長の政治家よりも、数字や分析に興味を持っていた」という。

 菅氏が9月に首相に就任すると、アトキンソン氏は日本メディアの興味の対象となった。ある週刊誌は、アトキンソン氏の隣人の言葉を引用し、同氏の東京の自宅の壁紙はエリザベス女王からの贈り物だと伝えた。アトキンソン氏は「全くどうでもいいものだ」と話したという。

 アトキンソン氏は11月に開かれた政府の「成長戦略会議」で、日本商工会議所の三村明夫会頭と議論を交わした。三村氏はそのとき、事業オーナーが従業員の生産性を上げるために最低賃金を上げるなどといったアトキンソン氏の考えの一部を採用すれば、破産や多くの企業の廃業といった結果を招くと述べた。

 アトキンソン氏は「それは日本的には相当激しい意見の対立だった」と語った。

 その結果もまた、異例のものだった。外国人の意見が通ったのだった。菅氏は中小企業の合併・買収を促す案を盛り込んだ計画発表の中で、「日本企業の最大の課題は生産性の向上だ」と表明した。

 元中小企業庁長官で安倍晋三前首相の首相補佐官を務めた長谷川栄一氏は、政府の計画について、歓迎するがどんなケースでもうまくいくものではない、と話す。

 長谷川氏によると、小規模な小売業者など一部の企業は、必ずしも利益の拡大を求めていないという。ある企業のオーナーが例えば68歳だった場合、新たな投資をするようこの人物を説得しようとするか疑問だという。従ってさまざまなアプローチが必要だと指摘する。

 東京の北西に位置する群馬県高崎市で67歳の男性が経営する眼鏡店は、妻が唯一の従業員だ。彼は店の負債を7、8年後をめどに返済したあと、事業を息子に引き継ぎたいと思っている。

成長戦略会議に望む菅首相

Photo: str/Agence France-Presse/Getty Images

 事業の拡大を考えたことはこれまで一度もなかったという。この何十年かの間に大型のディスカウント眼鏡店が高崎市内にできたことで店の売上高はほぼ半減し、コロナ禍により事業はさらに圧迫されている。しかし、この男性は、店は生き残ることができると語った。

 「この規模がベストだ。店を大きくしようとすれば、専門技術習得のため従業員を訓練しなければならなくなる」「(規模を拡大しても)いずれにせよ、もっと資金力のあるディスカウント・チェーン店との戦いでは敗北することになる」

 民間信用調査機関の帝国データバンクによると、新型コロナの感染拡大が始まって以降、倒産申請を行った500件を上回る企業の約80%が中小企業だった。

 アトキンソン氏は、「パンデミックはある意味で、経済分野で生産性の最も低い分野を直撃している」と指摘するとともに、「それはある程度、われわれが話し合っている(企業再編)プロセスを加速することになるだろう」と語った。

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