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Sunday, June 27, 2021

行動経済学はビジネスに、どう役立つのか - ITmedia

kuyupkali.blogspot.com

著者プロフィール:猪口真(いのぐち・まこと)

株式会社パトス代表取締役。


 行動経済学がさまざまなところで注目され、具体的な応用シーンが生まれている。企業でのマーケティングへの応用にも展開されつつあり、いたるところで、「○○の行動経済学」「誰でもわかる行動経済学」的なことが語られている。

 それもそのはずで、行動経済学に関連して、ノーベル賞を3人受賞しているのだから、注目を集めないはずがない。2002年のダニエル・カーネマン、2013年に受賞したイェール大学のロバート・シラー教授、そして、2017年のシカゴ大学のリチャード・セイラー教授だ。

 世界では、最初にイギリスがナッジユニットを組成し、さまざまな社会実験を行ったという。アメリカでは、2015年にオバマ大統領のもと、「行動科学のインサイトを活用し、米国国民に良いサービスを提供する」と発表された。

 日本でもおくればせながら、2019年には経済産業省が「METIナッジユニット」をつくり、「行動経済学(ナッジ)」の施策へどう落とし込むことができるかの検討を始めたようだ。それに引っ張られるように、内閣(日本経済再生本部)、環境省、経済産業省資源エネルギー庁でもいくつかのプロジェクトがスタートしているようだ。

 たしかに、国民全体(個人)を対象にするような施策を打つ場合、行動経済学にもとづいた選択肢の提供を行えば、かなりの効果はありそうだ。

 これは国民全体へ向けての話ではないが、警察庁では、宿直明けの職員が休みを取りやすくするために、「自分で休暇を申請するのではなく、休暇を前提として、勤務したい場合は申請する」という制度にしたという。結果的に効果があったらしく、経済行動学会のベストナッジ賞を受賞したそうだ。

 企業での導入、展開はどうかというと、マーケティングへの展開例が増加している。巷でも、「行動経済学をマーケティングに生かす」的な書籍やWebサイトが相当増えてきた。

 はやりものに目がないコンサルタントの方々は、「この施策は、行動経済学でいう○○効果で実証されておりまして……」などとおっしゃっているのだろう。

 行動経済学という、キャッチ―なネーミングと「人は常に合理的な選択をするわけではない」という、知ったようなコンセプトは、これまでの王道だったコトラーのマーケティングに対する新しい知見的な位置づけで、ブランディング的にも文句ない。

 ただしかし、よく見かける話は、以下のようなB2C志向のものばかりだ。

「通常価格○○円を50%オフの○○円!」=アンカリング効果

「今日までのサービス!」「メンバーだけのサービス(一般価格だと○○円かかる)」=プロスペクト理論

「ここまでかけた費用が「もったいない」=サンクコスト

「松竹梅の法則(中央の価格の商品を選びがち」=おとり効果

「もれなくプレゼント」「今なら確実に当選(すぐに利益を得られる)」=現在志向バイアス効果

 「論理だけでは説明がつかない非合理的な理由」に基づく行動として紹介されているものも、「同調」「見栄や虚栄心」「配置の仕方」「世間的な評判」「射幸心」「誰かが決めたルール」「難しさを避ける」といったようなもので、やはりB2Cを想起させる。

 「論理だけでは説明できない」という観点だけとれば、組織対組織(B2B)の仕事こそあてはまりそうな話だ。どうみても(論理的には)、クオリティも費用も上回っているにもかかわらず、関連部署の関係、複雑な人間関係、トップの鶴の一声などなど、いろいろな不合理なことが起きて、取引の意思決定がなされる。

 ただし、なまじっか前述したような「○○効果」的なことを、表面的に仕込んでも、逆効果になってしまうだろう。テクニカルなこと、「ひっかけ」的なものは、すぐにばれてしまい、拡大どころか取引停止がおちだ。

 大阪大学の大竹教授が言うように、「選択肢の提示が企業側の短期的な利益最大化という視点だけではナッジとは言えず、最終的にそのサービスを受ける消費者本人にとってより良い選択であることが前提」となる。最終的にサービスを受ける消費者を顧客企業に置き換えれば、自分の会社が儲かるからだけではなく、顧客企業のより良い選択になることが必要なのだ。

 B2Bの場面で、あえて、行動における非論理性をあげるとすれば、担当者においては「プライド」「自分ごと(自分がかかわる)「自分のポジショニング(社会的地位)」「今の危機を乗り越える」といったことはあるかもしれない。

 あくまで、「顧客企業のより良い選択」のために、担当者(あるいはその上司)が持ちそうな感情的な行動原理を考えたうえで、「施策」を選択するべきなのだろう。

 その際に参考したいのが、イギリスのナッジユニットが考案したという「EAST」と呼ばれるフレームワークだ。「E」はEasy(簡単)、「A」はAttractive(魅力的)、「S」はSocial(社会的)、「T」はTimely(タイムリー)となる。担当者(意思決定者)が簡単で魅力的だと感じ、しかも、社会的にも時間的にもふさわしいものを選ぶようにする。

 優先順位は、状況によって変わるとは思うが、この4つの視点を考えながら企画を考えていけば、間違えることも少ないだろう。

 もちろん、倫理的かどうかは、必ず押さえておくべきだろう。前述したが、「悪用」「ひっかけ」と思われてしまっては、これまでの信頼関係をすべてなくしてしまうこともありえるから注意が必要だ。

 組織の行動といっても、最終的に意思決定するのは、組織内の個人だ。組織対組織のビジネスにおいて、行動経済学がどう活用できるのか、追求していくポイントは多そうだ。

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