2020年に起きた新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)に匹敵する経済ショックは何世代に一度あるかないかであり、長期的かつ広範囲な変化をもたらすことになる。
世界経済は総人口77億人のほとんどがこれまでの人生で経験したことがなかったような落ち込みから回復へと向かっている。ワクチンは来年の景気持ち直しを加速させると考えられるが、コロナが残す他の遺産は今後数年にわたり世界経済を左右することになる。
既に予兆もある。工場やサービス業でロボットに仕事を奪われる傾向が今後強まる一方、ホワイトカラー労働者の在宅勤務も増える。国家間ならびに国内での格差も広がる。国民の生活における政府の役割も大きくなり、財政支出や債務がさらに膨らむことになる。
以下に進行中の変化を幾つか挙げる。
大きな政府
国家と国民の社会契約が臨機応変に書き換えられる中で、大きな政府が戻ってきた。当局が人々の行き先や誰と会ったのかを把握し、賃金の肩代わりをするのも当たり前になった。数十年にわたり自由市場の考え方が浸透していた国では、セーフティーネットの修繕が必要になった。
マッキンゼーによると、こうした費用を賄うために世界各国・地域が計上する今年の財政赤字は最大11兆ドル(約1136兆円)に上る可能性がある。このような大盤振る舞いをいつまで続けることができるのか、納税者がこの負担の支払いをいつ始めなければならないのかを巡り既に議論が交わされている。少なくとも先進国では超低金利が続き、金融市場も平静を保っており、近い将来の危機を示唆しているわけではない。
より長い目で見ると、経済学に大幅な再考が加えられ、公的債務を巡る考え方も変わりつつある。低インフレの世界では支出余力が増し、経済を後押しするためより積極的な財政政策を講じるべきだとする新たなコンセンサスが台頭してきた。現代貨幣理論(MMT)支持派はこうした主張の先駆けだとし、主流派が追い付いてきただけだと訴える。
さらなる金融緩和
中央銀行は再び金融緩和へとかじを切った。金利は過去最低を更新。量的緩和も強化され、国債だけでなく社債も買い入れることになった。
こうした一連の措置で歴史的にも超緩和的な金融環境が生まれ、投機的な動きに拍車を掛けた。その先にあるモラルハザードに懸念を示すアナリストは多いが、労働市場になお亀裂が入り、企業がコスト節減を続けるのであれば金融政策の転換は難しいだろう。
債務とゾンビ企業
各国・地域の政府はコロナ感染が拡大する中での命綱として信用を提供。企業もこれを活用した。その帰結として先進国では企業の債務水準が急上昇。国際決済銀行(BIS)は金融を除く企業が今年上期(1-6月)に差し引き3兆3600億ドルを借り入れたと推計した。
ある リポートによると、ロックダウン(都市封鎖)や消費者の慎重姿勢で多くの産業の売り上げが落ち込み、赤字で企業のバランスシートが傷んでおり、「企業の支払い能力を巡る大きな危機」を招きかねない状況になっている。
K字型の回復
経済活動の停止で顧客との対面接触が多いサービス業の低賃金労働がまず消失する傾向にあった。一方、主に富裕層が資産を保有する金融市場は労働市場を大きく上回る勢いで息を吹き返した。
これは「K字型回復」と呼ばれる。コロナ禍によって階層や人種、性別で所得や貧富の格差は広がった。
女性はコロナに苦しむ産業で働く傾向が強く、学校閉鎖で増した子育て負担の多くを担うことを余儀なくされたこともあり、不釣り合いに大きな打撃を受けている。
ロボットの台頭
新型コロナ感染症は人との接触を巡り、小売りやホスピタリティー業界、倉庫業などソーシャルディスタンス(社会的距離)の確保が難しい産業で新たな懸念をもたらした。1つの是正策はロボットへの置き換えだ。
自動化の動きはリセッション(景気後退)時に進むことが多いことを研究が示唆している。コロナ禍で企業はホテルのチェックインや飲食店でのサラダカット、料金所での徴収を担うことができる機械を使って作業を加速させた。オンラインでのショッピングもさらに浸透した。
こうしたイノベーションは経済の生産性を向上させるが、安全になって職場に戻ってもかつての仕事がそこにはないという事態も意味する。失業が長期化するほど、エコノミストが「ヒステリシス(履歴効果)」と呼ぶスキルの衰えも進み得る。
原題:
The Big Covid Changes in World Economy Are Only Just Beginning(抜粋)
からの記事と詳細 ( コロナ禍で大きな変化迫られた世界経済、変容は始まったばかり - ブルームバーグ )
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