
習近平国家主席が「歴史決議」を採択した。まさに中国が新しい時代に足を踏み入れるとの宣言だ。新時代に向かう経済では、「共同富裕(国全体で豊かになる考え)」が重視され、民間企業への締め付けは強まることが懸念される。習氏は経済活動の一部を犠牲にしてでも、習氏を頂点とした政治体制を作ろうとしているようだ。(法政大学大学院教授 真壁昭夫) ● 習近平を頂点とした政治体制 経済活動の一部を犠牲にしてでも 中国共産党の第19期中央委員会第6回全体会議(6中全会)において、習近平国家主席が「歴史決議」を採択した。同決議によって習氏は自らを、中国建国の父であり「文化大革命」の発案者の毛沢東、「改革開放」で中国経済の高成長を実現した鄧小平と「同列の存在」として、政権の長期化を目指す。さらには、生涯を通した「最高意思決定権者」の地位を確立するとの見方もある。 今回の歴史決議のポイントは、まさに中国が新しい時代に足を踏み入れるとの宣言だ。新時代に向かう経済では、「共同富裕(国全体で豊かになる考え)」が重視され、民間企業への締め付けは強まることが懸念される。習氏は経済活動の一部を犠牲にしてでも、習氏を頂点とした政治体制を作ろうとしているようだ。 足元、投資に依存したこれまでの、中国経済の成長モデルは限界を迎えている。本来ならば、中国は人々の自由を認めるなどの改革を進め、よりダイナミックに先端分野にヒト・モノ・カネの生産要素が再配分される環境を整備すべきだ。 しかし、香港や台湾への圧力の強化を見る限り、その展開は望み薄だ。むしろ、共産党政権による締め付けによって、資金や人材などの生産要素は海外に流出する恐れがある。中国経済は大きな曲がり角を迎えている。
● 在来分野での雇用の保護よりも 先端分野への生産要素の再配分を重視 2022年秋の党大会で、習氏は3期目の政権続投を実現したい。そのために習氏が重視しているのが「共同富裕」だ。これは、改革開放によって拡大した中国の所得格差の縮小を目指し、共産党の計画と指揮によって国民全体が安心して、平等に生活できる新しい経済を目指すものだ。 具体的に習政権は国家資本主義体制を強化し、市場原理よりも党の権能に基づいて成長分野に資源を再配分し、成長を目指す姿勢を明確にしている。中国政府はバブル崩壊後のわが国経済の政策運営などを入念に研究し、在来分野での雇用の保護よりも、人工知能や量子技術、バイオ、半導体、高速通信など先端分野への生産要素の再配分を重視している。先端分野の科学技術は中国の軍事力の強化にも必要だ。そのために産業補助金の支給も増えている。 ただし、国家資本主義体制を強化して共同富裕の夢を追い求め、さらには中華思想の実現を目指す新時代の経済運営が、中国経済の成長を加速させるとは想定しづらい。現在の経済運営を見ていると、共産党政権は経済の安定よりも、党の支配力や求心力の強化を優先しているようだ。 例えば、恒大集団(エバーグランデ)など不動産セクターでの債務問題の解決には、理論的には公的資金の注入など公的な救済を行うべきだ。しかし、共産党政権は資産の切り売りによる自力再建をベースに不動産バブルをつぶそうとしている。エバーグランデが実質的な経営破綻に追い込まれる可能性は高まっている。 電力不足問題にも、共産党の意向が大きく影響している。石炭火力発電を減らすことによって大気汚染や脱炭素に対応することは重要だ。しかし、そのためには、代替電源の確保が欠かせない。さらに問題なのが、豪州との関係悪化によって石炭が想定外に不足し、産業活動に大きな支障が出ている。本来であれば中国は豪州との関係を修復して電力市場の安定化を図るべきだが、それができない。
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