サムスン電子の李健熙(イ・ゴンヒ)会長(右)は中興の祖となった
韓国サムスングループ中興の祖、李健熙(イ・ゴンヒ)会長が25日死去した。1987年の会長就任以降、将来を見通す先見性と果敢な投資で、サムスンを売上高21兆円、時価総額33兆円の世界を代表するIT(情報技術)企業に育て上げた。特に半導体メモリーと薄型テレビ、スマートフォンでは日本企業を駆逐し、「憎らしいほど強い」(競合企業幹部)と言わしめた。
■不況期でもひるまない果敢な投資
メモリーバブルと呼ばれた2018年に44兆5800億ウォン(約4兆円)の営業利益をたたき出した半導体部門。その源流は70年代の「先端技術産業での成功なしにサムスンは生き残れない」との李氏の判断だった。父親である李秉喆(イ・ビョンチョル)氏はじめ周囲が「テレビもまともに作れないのに半導体はまだ早い」との反対を押し切って半導体参入を決めた。
80年代には米マイクロン・テクノロジーから技術供与を受けてDRAMに進出し、米インテルを追い詰めていたNECや東芝など日本勢を追い上げた。93年にはNECを抜いてDRAMで首位となり、四半世紀後の今もトップに君臨する。東芝が発明したNAND型フラッシュメモリーでは両社で市場拡大するためとして技術提携を結び、2000年代前半には既に市場シェアで東芝を上回っていた。
サムスンは年間2兆円という巨額の半導体投資で競合他社を圧倒している(世界最大となる平沢工場)
サムスンの真骨頂は不況期でもひるまない果敢な投資決断だ。価格が乱高下する半導体メモリーやディスプレーの業界で、需要が底をつく市況の最悪期にこそ投資を打ち出す。「競合が投資を控える不況期は装置メーカーが下手に出る」(元サムスン幹部)ため価格や納期で強気に交渉する。市況の底で投資を決断して次の好況期に稼ぐというサムスンの必勝パターンを確立した。
開発と生産をソウル郊外の京畿道・器興(キフン)に集中させて技術開発と量産にまい進。日本の電機大手から週末に技術者を招いて主に生産技術を学び取った。技術者の間で「週末バイト」と呼ばれ、報酬は数十万円。なりふり構わず足りない技術を蓄積していった。器興にほど近い華城(ファソン)と平沢(ピョンテク)にも世界最大規模の半導体工場を建設し、生産能力で世界首位をひた走る。
巨人サムスンと対峙し続けてきた元エルピーダメモリ社長の坂本幸雄氏は「15年前に既に『これからの競争相手は中国だ』と言って社員の慢心をいさめていた」と李健熙氏の先見性に目を見張る。東芝の元幹部は、「サムスンは生産技術はもとより、データセンター運営のIT大手へのマーケティング力でも他社を圧倒していた」と話す。
■長期戦略で液晶パネルを制覇
かつては日本のお家芸だったテレビも世界首位を李健熙氏が率いるサムスンに奪われた。ブラウン管から薄型テレビへの移行期、サムスンはライバルのソニーと基幹部品の液晶パネルで合弁生産を開始。当初、テレビ販売が伸び盛りなサムスンが悩んだのがパネルの調達不足だ。
「外販よりも自社製品にパネルを優先供給すべきだ」。サムスン社内ではそんな声が上がったが、経営トップの意向は違った。「ソニーへの供給を優先しろ。ソニーが世界で売れば、サムスンのパネルが世界で売れることになる。自社向けの足りないパネルは外から調達しても構わない」との指示が飛んだという。
サムスンは薄型テレビでも世界首位を維持する
まずは世界的なテレビブランドだったソニーの力をバネに、基幹部品のパネルで世界一を確実にする。そんな長期戦略を李健熙氏は描いた。もちろん、ただでは転ばない。合弁生産を通じ、ソニーの生産計画を把握し、技術や人材も一部吸収するしたたかさもあった。
■デザインやマーケティングにも投資
李健熙氏は不正資金疑惑で08年に会長を辞任したが、特赦を受けて10年に会長に復帰する。新たに勝負に出たのが、米アップルのiPhone登場で成長著しいスマホ分野だ。このとき、サムスンはデザインやマーケティングに惜しみない投資をした。
日本のデジタル家電は供給者目線のプロダクト・アウトの発想で、消費者の支持を得られなかった。サムスンは日本の失敗を他山の石とし、アップルに対抗しうるデザインやマーケティング力をスマホで高めた。
高機能の粋を集めたスマホで先進的なブランドイメージを構築してきた(20年9月の新型スマホ発表会)
李健熙氏率いるサムスンに、デジタル製品では一敗地にまみれた日本の電子産業。その敗退の歴史から何を学ぶのかが今こそ問われている。
(ソウル=細川幸太郎)
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October 28, 2020
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李健熙サムスン、半導体・テレビ・スマホで日本に全勝 - 日本経済新聞
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