マスクなしで支持者と交流するブラジルのボルソナロ大統領(24日、ブラジリア)=ロイター
【サンパウロ=外山尚之】中南米で新型コロナウイルスの感染拡大の勢いが止まらない。ブラジルは25日、前日に続き1日あたりの死亡者数が米国を上回った。貧困層への配慮から経済活動を優先し、医療体制の整備も十分ではない。メキシコやペルーも感染拡大が収まらない中で経済再開に動いており、中南米が新型コロナの「新たな震源地」になりかねない。
「ただの風邪じゃないか」。新型コロナを軽視するブラジルのボルソナロ大統領は1日あたりの死者数が初めて世界最悪となった24日も、大統領府に集まった政権支持者の集会に参加。マスク無しで握手や自撮り(セルフィー)に応じた。感染拡大防止のため世界各地で進められる外出などの制限やマスク着用義務化などの対策をとらず、経済優先の立場を押し通している。
中南米では感染者の初確認は2月末~3月初旬と比較的遅かったが、対策の遅れで急速に増加。米ジョンズ・ホプキンス大学の調べによると中南米カリブ地域33カ国の感染者数は25日時点で76万人を超え、全世界に占める感染者数の比率は約14%と、1カ月前から8.4ポイント上昇。感染者数はブラジルが世界2位、ペルーが10位、チリが13位に膨らんだ。世界保健機関(WHO)は22日、「南米が新たな震源地になっている」と警戒を呼びかけた。
感染拡大の背景には先進国に比べて検査や医療体制が十分に整っていないことに加えて、外出制限などで経済活動を止めれば生計を維持できなくなる貧困層が多く、先進国のような厳格な感染防止策がとりにくいこともある。
ブラジルはその典型といえる。ボルソナロ氏は「経済が破壊される」として各州が進める外出制限に強硬に反対し、国民に外に出るよう呼びかけたほか、企業にも通常活動を促す。感染拡大防止を進めたい保健相が1カ月で2人辞任するなど政権自体も混乱している。衛生状態が良くない「ファベーラ」と呼ばれる貧民街を中心に集団感染も起きている。
感染拡大よりも経済を優先するのはブラジルだけではない。「対策をきちんととればきょうからでも事業を再開できる」。メキシコのロペスオブラドール大統領は5月18日朝の定例会見でこう宣言し、自動車など幅広い産業で活動再開を進める意向を示した。ペルー政府も鉱業分野などを中心に、すでに経済活動の再開を認めた。両国とも感染拡大のペースは十分に抑えられていない。
国際通貨基金(IMF)によると、中南米カリブ地域の2020年の経済成長率見通しはマイナス5.2%と、他の新興国地域に比べて落ち込み幅が大きい。国連の推計では輸出や観光客の減少で、地域の失業率は11.5%と19年から3.4ポイントも悪化し、2900万人が新たに貧困層入りする。貧困層の拡大は支持率悪化にも直結するだけに、感染防止より経済再開を優先せざるを得ない。
もっとも、経済再開は感染の再拡大リスクと背中合わせだ。チリ政府は15日、新規感染者の急増を受け首都サンティアゴ市全域で外出を禁止した。同国では4月下旬、感染拡大のピークを越えたとして、サンティアゴでも地区ごとに設定した外出制限を段階的に解除している最中だった。
今後、経済再開を急ぐ他の国でも感染者数が急増する可能性は否定できない。中南米で新型コロナの問題が一段落するにはまだ相当の時間がかかりそうだ。
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May 26, 2020 at 03:00PM
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新型コロナ:中南米「新たな震源地」に コロナ対策、経済優先で混乱 - 日本経済新聞
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