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Friday, April 17, 2020

コラム:財政も企業財務も支援、日銀がコロナで未知の領域に=井上哲也氏 - ロイター (Reuters Japan)

[東京 17日] - 新型コロナウイルス問題に対する経済政策の焦点は、金融市場の不安定化の阻止から、企業の支援へとシフトしつつある。しかも、事態の推移に伴って問題の核心が、変化しつつある点に注意すべきである。

4月17日、新型コロナウイルス問題に対する経済政策の焦点は、金融市場の不安定化の阻止から、企業の支援へとシフトしつつある。写真は2019年12月、日銀本店で記者会見する黒田東彦総裁(2020年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

当初は、銀行や市場関係者が不安心理に支配され、貸し渋りや起債の困難化によって企業の資金繰りに支障が生ずることへの懸念が大きかった。これに対し、日銀を含む主要国の中央銀行は、低利の資金供給による貸出支援策や社債、CPの買い入れを通じた市場機能の下支えといった措置を講じ、一定の成果を挙げた。 

しかし、感染の拡大と長期化に伴い、影響の深刻な産業や財務の脆弱な中堅・中小企業を中心に、一時的な資金繰りだけでなく、事業の存続に対する懸念も生じ始めている。経済活動の抑制に伴って、売り上げは顕著に減少する一方、賃金やレント(不動産などの賃借料)、設備のリース料、既往の借り入れの利払いといった支出によって損失が蓄積し続けるからである。 

こうした売り上げの逸失分は、感染拡大の終息後も家計や企業の支出行動が慎重化するリスクを考えると、短期間で取り返すことは難しそうだ。実際、国際通貨基金(IMF)が公表した世界経済見通しによれば、楽観的なシナリオの下でも世界経済が元の成長パスに戻るには、数年を要することが示唆されている。

もちろん、財政資金を大規模に投入して損失を一気に消滅させれば、企業は事業を存続させ、前向きの支出行動へと迅速に転ずることができる。しかし、日本の財政状況を考えた場合、別の危機を引き起こしかねない点で選択肢とはなり得ない。そうなると、企業にとって現実的な対応は、こうした損失を時間をかけて処理するということになり、経済政策の課題は、その間に企業が財務面で破綻することがないよう支援することになる。

<次回会合、CP・社債オペ増強がテーマ>

報道によれば、大手企業にはクレジットラインの引き出し等を通じて資金を調達する動きがみられる。このうち、今後のリスクに備えて予備的に手元資金を厚くする対応に関しては特段の支援の必要も少ないが、深刻な打撃を受けている産業による資金調達には、十分に配慮する必要がある。 

次回の金融政策決定会合で社債やCPの買い入れの強化が決定されるとの見方は、こうした問題意識を背景としており、その意味で的確である。ただし、社債やCPの買い入れであっても、クレジット市場でのリスクプレミアムの抑制という従来の目的とは異なり、今回は、日銀が信用リスクを分担する意味合いを持ちうることに注意する必要がある。その点では、政策目的や日銀による引当の計上を含む財務上の扱いを明確にするために、同じ買い入れであっても、別の制度として導入することが考えられる。

<SPⅤ設立で企業支援も>

より状況が深刻なのは中堅・中小企業であり、新型コロナウイルス問題の影響が飲食、宿泊、観光、医療など中堅・中小企業のウエイトが高い産業に集中しているだけに、なおさらそうである。

これらの産業は収益性が高くなかっただけに、蓄積した損失を時間をかけて処理することができれば、その意味合いは大きい。

具体的には、これらの企業がこうした損失を穴埋めするために行った借り入れを金融機関側で特定した上で、長期与信に切り替えることが考えられる。その際には、企業の負担を軽減するために利子の一部を財政資金で支援するほか、金融機関に生じうる信用リスクを抑制するために、外部から信用補完を行うことが望ましい。 

そのためには、信用保証協会のような既存の仕組みを活用するほかに、米国のように政府と中央銀行が協力して特別目的会社(SPV)を作り、民間金融機関からこうした貸出を買い取ることで、貸し倒れ損失に対する吸収の仕組みを導入することが考えられる。

その際には、もともとの貸し出しを行った民間金融機関による事業性評価の知見を活用するとともに、モラルハザードを抑制する観点から、全額でなく一部の買い取りとすることが望ましい。

同時に、金融庁も自己資本比率規制やレバレッジ規制の面から柔軟な扱いを講ずることで、深刻な打撃を受けた中堅・中小企業への貸し渋りが生じないようにすることが求められる。

<膨張する財政の支援>

このように企業に対する金融面の支援の主役は、財政と政府系を含む金融機関が担い、日銀の役割はどちらかといえばバックアップ的な位置づけになる。一方で日銀には、財政の支援というもう1つの重要で難しい役割が浮上してくる。

政府の緊急経済対策は、個人に対する現金給付を含めて既に規模が拡大しており、今後も感染抑制策の長期化などによって、一段と多額の財政支出を伴う可能性がある。しかも、施策の大半は緊急性を要するだけに、迅速な資金調達が必要となる。

民間金融機関は「量的・質的金融緩和」を通じて国債保有を減らし、今や日銀オペの担保にも不足をきたす状態であるだけに、これから政府が国債を顕著に増発しても市場での消化に支障はないと考えることもできる。

しかし、ここまで論じてきたように民間金融機関もこれから難しい与信に取り組む必要があり、流動性の面はともかく、リスクテイクの面でより多くの制約を受けることは考えられる。

その意味で、あくまでも予防的な意味合いではあるが、政府が急増する財政支出を賄うための資金を調達する際には、日銀が一時的かつ一部を担うことで、国債の市中発行のニーズを平準化することが考えられる。

具体的には、政府が必要な資金の一定割合を短期国債発行で賄い、日銀がそれを引き受けるが、満期が到来したら日銀は償還金を受領する一方、政府はその分を国債の市場発行で実質的に借り換える──というスキームだ。

短期国債の発行と償還のスケジュールを柔軟に運営すれば、国債の市場発行の時間的なパターンも平準化することが可能になる。

全く異なった例ではあるが、日本でも為替介入(円売り)の資金調達においては既に類似のやり方が採用されている。また、実際に行う場合には、政府と日銀があらかじめ取り決めを交わし、対外的に公表することも必要である。

コロナウイルス問題への対応に関しては、日本に限らず米欧でも中央銀行が財政を実質的に支援する事例がむしろ一般化しそうであるが、財政状況を考えると日本の場合は、特にこうした慎重な仕組みを付与することが必要になる。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

井上哲也氏

*井上哲也氏は、野村総合研究所の金融イノベーション研究部主席研究員。1985年東京大学経済学部卒業後、日本銀行に入行。米イエール大学大学院留学(経済学修士)、福井俊彦副総裁(当時)秘書、植田和男審議委員(当時)スタッフなどを経て、2004年に金融市場局外国為替平衡操作担当総括、2006年に金融市場局参事役(国際金融為替市場)に就任。2008年に日銀を退職し、野村総合研究所に入社。主な著書に「異次元緩和―黒田日銀の戦略を読み解く」(日本経済新聞出版社、2013年)など。

(編集:田巻一彦)

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